長時間労働にべらんめい調の叱責で自殺
堺労基署長(パン製造会社)新入社員自殺事件
(大阪地裁平成21年1月14日判決)
<事件の概要>
全国チェーンを展開するパン製造会社に営業正社員として採用され、その子会社に出向した甲は、当時本件店舗の開店間近であったことから、17日間で休日は2日、合計178時間の勤務をしていた。
当時本件店舗の正社員は、甲及び女性従業員乙がいたが、本社から開店の応援に来たA課長は、甲、乙に厳しく接し、店長に対し甲らを「締めてやれ」と言ったり、「てめえ」、「そんなこともできねえのかよ、馬鹿かよ」等べらんめえ調で執拗に叱責したり、レジの金額が合わなかった際には、きつく叱責し、何度もやり直しを命じたりした。
こうした中、開店1週間後に乙は退職し、甲はその直後、うつ病を発症して自殺した。
甲の両親(原告ら)は、甲の自殺は業務の過重負荷が原因であるとして、労基署長に対し、労災保険法に基づき遺族補償給付等の支給を請求したところ、同署長がこれを不支給とする本件処分をしたことから、その取消しを求めた。
<判決要旨>
甲は、いきなり新規開店の本件店舗で勤務している上、初めて正社員として勤務したものであって、その心理的負荷は相当程度大きいものであった。
そして、本件店舗は事前の予想を大きく上回る繁忙のため、甲の労働密度は高く、その心理的負荷もより大きなものとなっていたというペきである。
しかも甲は交替することなく長時間労働に連日従事し、正社員という理由でパートやアルバイトの指導を求められていたほか、上司から高い水準を要求され、またA課長からきつい調子で細々したことまで執拗に厳しく叱責されていたことを踏まえると、甲の心理的負荷は特別大きなものになっていたと推許される。
加えて、本件店舗は販売の正社員の負担を軽減するに十分な体制であったか疑義が残るところであり、少なくともA課長の甲に対する叱責・指導に関し、他の社員による精神的フォローがされていないことを踏まえると、むしろ負担のかけ方は当を得ていない。
以上の事実を踏まえると、甲の年齢(23歳)、経験(正社員として勤務したことはない)、業務内容、労働時間、責任の大きさ、裁量性のなさ、以上の負荷が相乗的に作用して負荷が増大したことが強く窺われることを総合して勘案すると、甲の業務による心理的負荷は、社会通念上、客観的にみて、精神障害を発症させる程度に過重であったといえる。
他方、甲には業務以外の心理的負荷は認められず、精神疾患等の脆弱性を窺わせる事情も認められないから、業務と甲の死亡との間には相当因果関係が認められる。
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