長時間労働とパワハラに疲れ飲酒運転死
土木建築会社飲酒運転事故死事件
(津地裁平成21年2月19日判決)
<事件の概要>
土木建築工事、設計施工等を業とする被告に養成社員として入社した甲は、入社2か月後から厳しい山岳地の作業所に配置され、毎日深夜まで勤務し、土日も出勤する場合があった。
被告は時間外労働について月間最大50時間と定め、それ以上については割増貸金を支給していなかった。
このような中、甲の入社2年後には残業時間が一層増加し、連日のように深夜勤務が続いたほか、上司らからの罵倒や暴力などのパワハラを受け、その中で甲は勤務後に上司ら数名と居酒屋で飲酒した。
甲は飲酒後一旦作業場に戻ったところ、上司乙らが甲の車で自宅に送るよう要求したため、飲酒運転をし、交通事故を起こして3人全員が死亡した。
甲の両親である原告らは、被告は甲を違法で過酷な時間外労働に従事させ、上司によるパワハラを放置したとして、安全配慮義務違反ないし不法行為を主張して、それぞれに慰謝料100万円を支払うよう要求した。
<判決要旨>
被告では、時間外労働の上限50時間を超える残業について把握することを怠っていたことが認められ、このような対応は安全配慮義務に違反すると同時に不法行為責任を負うべきものである。
甲は、指導に当たった乙から「おまえみたいな者が入ってくるで部長がリストラになるんや」などと嫌みを言われるほか、物を投げつけられたり、机を蹴飛ばすなどされ、更に、勤務時間中にガムを吐かれたり、測量用の針の付いたボールを投げつけられて足を怪我するなど、およそ指導を逸脱した嫌がらせを受けていたことが認められる。
これらの事実からすれば、甲は本件作業所に配置されて以降、上司から極めて不当な肉体的精神的苦痛を与え続けられ、所長はこれに対し何らの問題意識すら持っていなかったことが認められる。
その結果、被告は何ら嫌がらせを解消すべき措置をとっておらず、このような被告の対応は、養成社員に対する職場内の人権侵害が生じないように配慮する義務(パワーハラスメント防止義務)としての安全配慮義務に違反しているというほかない。
本件交通事故当日の飲食は、甲はあくまでも自由意思で参加したというべきであって、職務の−環ということはできない。
また、飲食後、甲が乙らからの求めに応じて自ら運転して自宅まで送ることにしたことも、これを職務の一環ということまではできず、これらの点に関して被告の責任を問うことはできない。
被告は、甲に対する安全配慮義務に逮反するとともに、不法行為に基づく慰謝料を支払うべき責任がある。甲があまりに過酷な時間外労働を恒常的に強いられ、上司からさまぎまな嫌がらせを受けて肉体的精神的に相当追い詰められた中で本件交通事故が発生したことからすれば、慰謝料は合計150万円をもって相当とする。
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