先輩からの暴力と恐喝等で自殺
海上自衛隊電測員暴行・恐喝等自殺事件
(横浜地裁平成23年1月26日判決)
<事件の概要>
甲は、平成15年8月に海上自衛隊に入隊し、「たちかぜ」に船務科電測員として乗務しており、一方被告は、たちかぜ勤務が長かったため、「主」的存在になっており、後輩がミスした場合等には怒鳴りつけたり、暴行するなどしていた。
被告と甲は、平成15年ないし平成16年10月当時、同じ班に属し、上下関係はなかったものの、被告は半年余の間に甲に対し10回以上暴行を加え、エアガンを用いてBB弾を撃ったり、アダルトビデオを100本程度売りつけるなどした。
一方、甲は貸金業者から借金をするようになり、死亡当時は200万円余の債務を負っていた。
甲は平成16年10月27日、電車に飛び込んで自殺したが、当時甲のノートには、「お前だけは絶対許さねえからな、必ず呪い殺してやる」といった被告に対する恨みなどが記載されていた。
甲の両親(原告)は、甲の自殺は被告の暴行や恐喝によるものであり、被告の上司はこれを知りながら止めなかった安全配慮義務違反があったとして、被告及び国に対し、逸失利益4,897万円余、甲の慰謝料5,000万円、原告ら固有の慰謝料各1,000万円等を請求した。
<判決要旨>
被告は、平成16年2月ないし3月頃から、遅くとも同年9月頃まで、甲に対し10回以上平手で頭を殴打したり、足蹴にするなどし、数回以上にわたりエアガンでBB弾を撃つ暴行を行った。
また被告はアダルトビデオの販売を名目に合計8〜9万円を受領したが、これは甲に対する恐喝行為といえる。
そうすると、被告の甲に対する上記暴行及び恐鳴く本件暴行等)については不法行為が成立するが、これは甲の業務に対する不満などが契機としてなされた「行き過ぎた指導」というべきものが含まれる一方、職務とは全く関係なくなされたものがあり、その一部については国賠法1条1項に基づき国が損害賠償責任を負う反面、その範囲では公務員個人の責任は免責されると解されるから、被告の責任は職務につきなされたとは認められない暴行等に限られる。
被告は甲の上司には当たらないから、同人に対する指導、教育の権限を有しないが、先輩隊員として指導的な立場にあり、日常の業務の中で後輩隊員の業務を指導することは許されていたと認められるから、業務上の不満を抱いた際の暴行については、客観的、外形的にみて被告の職務内容と密接に関連し、職務行為に付随してなされたものといえ、これについて国は国賠法1条1項の責任は免れない。
甲が自殺時に所持していたノートには、遺書というべき記載が残されており、その中には被告への激しい憎悪を示す言葉が書き連ねられていたのであり、甲が経済的逼迫状態にあったところに恐喝行為によって多額の金員をせびり取られたことによる打撃、それが今後も続くことへの絶望感が自殺の直接の契機になったことがうかがえる。
さらに被告による後輩隊員への暴行は甲が自殺した月になっても続いており、このように被告が艦内で思うがままに粗暴な行動をすることが続いていたことも甲を自殺に導いた重要な要因と考えられる。
確かに、甲が経済的に相当程度逼迫した状況にあったことは事実だが、借金は200万円前後であり、収入と比較すると直ちに自殺という事態を招くものとまではいえないし、甲が闇全業者からも借入れをしていたことをうかがわせる事情もあるが、自殺を念慮するほどの厳しい取立てを受けていたことを具体的に認めるに足る証拠はない。
以上によれば、甲の自殺の原因は、同人の経湘勺逼迫に加えて、被告から暴行、恐喝を受けたこと、これが今後も続くと予想されたことにあったと認めるのが相当であるから、被告の不法行為及び上司らが
被告の指導監督を怠り、被告の暴行や規律違反行為を止めることができなかったことと甲の自殺との間には事実的因果関係を認めることができる。
本件暴行等は卑劣なもので、甲の物心両面に与えた打撃は深刻なものであったと解される。
しかし、被告は甲のみをねらい撃ちにしたものとはいえず、また甲と被告は日中は別個の持ち場で業務に従事しており、甲は平成16年6月からは艦外に住居を持ち、同年9月から10月にかけてはたちかぜがほぼ停泊状態にあって、当直に当たらない夜間はほぼ外泊し、被告と同日に当直に当たったことも3回であったなど、死亡前に被告との接触が際だって多かったなどの事情は認められない。
これらの事情と甲の死亡直前の言動を総合すると、甲が自殺に至るまでの間に被告との間で自殺の危険を窺わせる兆候を見せたとは認められず、また被告において、本件暴行等により甲が自殺することまで予見することができたとまでは認められない。
すると、甲の死亡によって発生した損害については、被告の不法行為との間に相当因果関係は認められない。
そうすると、被告はエアガン等を用いた暴行及び恐嶋により甲が被った精神的苦痛に対する慰謝料について賠償責任を負う。
また被告の不法行為が直接の加害者のものであることを考慮すると、このことを理由に被告に対する慰謝料が国に対する慰謝料に比べて低額となるべきではない。
以上、諸般の事情を考慮すると、被告に命ずべき慰謝料の額は400万円を、国においても400万円をもって相当と認め、弁護士費用は40方円を相当と認める。
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