リーダーへの昇格や罵倒で自殺
熊本(自動車部品等製作所)うつ病自殺事件
(第1審 熊本地裁平成19年1月22日判決)
(控訴審 福岡高裁平成19年10月25日判決)
<事件の概要>
自動車部品等の製造・販売を業とする被告で塗装業務に従事していた甲は、親会社が検査基準を著しく厳しくしたことから再塗装等が増加し、リーダーに昇格して時間外・休日労働が月間100時間を超え、上司から厳しい叱責を受けたこともあって自殺した。
甲の妻(原告A)、両親(同B及びC)は、安全配慮義務違反を理由に、逸失利益、慰謝料等を、原告Aにつき5,900万円余、同B及びCにつき各1,670万円余を支払うよう被告に請求した。
なお、労基署長は甲の自殺を業務上災害と認め、労災保険の遺族補償給付を支給した。
<第1審判決要旨>
係長は、従業員がミスを犯すと、「バカ」、「アホ」、「ぽけ」、「死ね」などと叱責していたが、時には甲の体調を気遣う言葉を掛けていたことなどからすると、甲に対する悪意はなかったことが窺われる。
しかし、当時の甲の勤務状態からすれば、係長による叱責は甲を追い詰める一要因になったものということができる。
甲の時間外労働が月100時間を超えていることに加え、十分な支援体制が取られていない状況下で過度の負荷を伴う業務に従事し続け、さらにはリーダーへの心理的負担の増加があり、それは甲に相当程度の肉体的・心理的負荷を与えたものと認められる0これらの状況を総合的に判断すれば、甲の業務には精神障害を発症させるに足りる強い負担があり、本件自殺と業務との間に業務起因性が認められる。
甲の時間外休日労働が、特にこ本件自殺2か月前からは連続して月100時間を超えていることに加え、十分な支援体制が取れていないことから、甲は極度の負担を伴う状態で稼働していたことが認められ、被告にはこれが甲の健康状態の悪化を招くことは容易に認識し得たといえる。
甲の時間外・休日労働が過重なまでに長時間に及んでいることに加え、甲の業務内容、甲がリーダーに昇格していたことなどの事態が生じていたのであるから、被告は適宜甲の勤務時間をチェックするなどして甲の心身に変調を来たすことがないよう注意すべき義務があったといえる。
ところが被告は上記配慮をせず、その結果本件自殺が引き起こされたのであるから、被告には安全配慮義務違反があり、同違反と本件自殺との間には因果関係があるというべきである。
甲は今後43年間就労が可能であるから、逸失利益は4,665万円余、死亡慰謝料は2,800万円等となり、労災保険により受給した遺族補傭年金785万円余を控除する。
本件は被告が控訴し、原告も損害賠償額の引上げを求めて附帯控訴したが、控訴審ではほぼ原審と同旨の判断により、いずれも棄却された。
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