出会い系サイトへの投稿で解雇
エ業技術専門学校私用メール解雇事件
(第1審 福岡地裁久留米支部平成16年12月17日判決)
(控訴審 福岡高裁平成17年9月14日判決)
<事件の概要>
工業技術専門学校(被告学校)に、教師兼進路指導課長として勤務する原告は、平成12年12月頃から業務用パソコンを利用して学外の女性Aとの間で頻繁に私用メールを交わし、平成13年4月頃から多くの出会い系サイトに登録し、平成15年1月に出会い系サイトで出会った女性Bと連日のように何回もメールを交換したほか、SMパートナーの募集投満などをした。
原告の5年間の送受信数2,980件のうち、Aとの送受信が700件、出会い系サイトが910件、Bとの送受信が200件であった。
平成15年8月、原告の私用メールを知った学校法人(被告)は、調査してメールのやり取りを把握した上、原告に自主退職を勧めたところ、原告は私用メールは認めたものの退職は拒否したことから、被告は原告に対し出勤停止措置をとり、さらに懲戒委員会の議を経て原告を懲戒解雇した。
これに対し原告は、被告は本件投稿判明から1か月間原告に注意しなかったこと、SMメールはなかったこと、本件懲戒解雇の手続きに納得できないことを指摘し、苦情処理委員会に不服申立てをしたが、同委員会はこれを棄却した。
原告は、処分理由が非開示とされ、弁明の機会が与えられず、他の事例と比べて均衡を欠くことから、本件解雇は無効であるとして、雇用契約上の地位の確認等を求めた。
<第1審判決要旨>
原告の一連の行為は、被用者として職務専念義務や職場の規律維持に反するだけでなく、教職員としての適格性にも疑問を生じさせるし、更には被告や学校の名誉信用に係るものであって、これらは服務規律の懲戒事由に一応は該当する。
しかしながら、懲戒解雇は、被用者に射し従業員としての地位を喪失させるという極めて重大な不利益を負わせるものであることから鑑みると、規律違反の頻度、程度、被処分者に関する事情、その他諸般の事情を考慮して、社会通念上相当として是認し碍ない場合には、懲戒権の澄用として無効になるというべきである。
原告には、職務専念義務や服務規律連反があるほか、教師としての適格性に疑開がないではないにしても、SMパートナーの募集のやりとりは、紹介者との間の送受借が数回あるだけであり、出会い系サイトで知り合った者との私的なメールの内容はいずれも卑わいなものとは性質を異にしている。
そして原告は、本件懲戒解雇当時、授業や学生の就職関係の事務を特に疎かにしたことはなく、メールの送受信自体によって学校の集務に著しい支障を生じさせておらず、生徒に対して格別の悪影響を及ぼしたことも窺えない。
また、本件投稿等自体が、具体的・現実的に被告ないし学校の名誉信用を毀損し、その社会的評価を低下させたとは直ちにはいい難い。
以上のような諸事情を総合勘案すると、原告に対し懲戒解雇をもって臨むのはいささか苛酷に過ぎ、本件懲戒解蕎は解雇権の濫用として無効というべきである。
<控訴審判決>
被控訴人(第1審原告)が受送信したメールには性的な関係を持つことを露骨に求めるものは少なく、他愛ないものがほとんどであったとしても、被控訴人は控訴人(第1審被告)から貸与されたパソコンを使用して私用メールのやり取りを繰り返していたものであり、その回数も膨大な件数に達し、しかもその半数程度が勤務時間内に受送信されるなど、職務の遂行に専念すべき義務等に著しく反し、その程度も相当に重いというほかない。
また被控訴人は、その発情元が控訴人学校のパソコンであることを推知し得る本件メールアドレスを用い、SMに興味ある女性にメールの送信を呼びかけるなど露骨に性的関係を求める内容のメールを送信していたのであり、かかる行為により控訴人学校の品位、体面及び名誉が傷つけられるものというべきである。
被控訴人は、メール相手先の女性と交際していないこと、授業や就職関係の事務を疎かにしたことはないこと、控訴人学校にはパソコン使用規程がなく、他の職員もこれを少なからず私的に利用していたこと、同僚も寛大な処分を求めていること、本件懲戒解雇にあたっては被控訴人等に対し関係資料が開示されず、弁明の機会も与えられなかったこと、本件懲戒解雇は均衡を失する不公平、不公正なものであることなどを主張する。
しかし、被控訴人は、控訴人学校のものであることを推知し得る本件アドレスを用いてSMの相手を求める旨のメールを送信してから、かかるメールが第三者に閲覧可能な状態に置かれただけで控訴人学校の名誉等を傷つけるものであるし、被控訴人は長期間にわたり膨大な量の私用メールを勤務時間中に送受信していたものであり、かかる職務専念義務を軽視し得ないはどに怠っておきながら、事務を疎かにしなかったなどということはできない。
また、控訴人学校がパソコンの使用規程を設けていたか否かによってその背信性の程度を異にするものということはできないし、被控訴人以外の職員の中に、被控訴人に匹敵するほどの私用メールを繰り返していたことを窺わせる証拠はない。
さらに、被控訴人は本件処分以前に減給処分を受けたことがあり、再度非違行為を繰り返せば更に重い処分を課されるであろうことは十分にわかっていたはずであり、不正行為が発覚した後も、本件出勤停止措置がとられるまでの間、事情聴取した上司に対し、謝罪や反省の弁を述べることもなかった。
また、被控訴人の非違行為の程度及び被控訴人が教育者たる立場にあったことからすれば、本件懲戒解雇は誠にやむを得ないものであって、これが不当に苛酷ということもできない。
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