強圧的指導や性的発言で女性従業員が退職
菓子店店長暴言等事件
(第1審 東京地裁平成20年3月26日判決)
(控訴審 東京高裁平成20年9月10日判決)
<事件の概要>
原告は、高校卒業後1年更新の契約社員として菓子の製造・販売を業とする被告に雇用され、A店に配属されたところ、店長に叱責されるほか、「昨夜遊び過ぎたんじゃない」、「頭おかしいんじゃない」、「エイズ検査を受けた方がいい」、「秋葉原で働いた方がいい」などと言われた。
採用翌年の正月、全店貞と店長及び他店店長の5人で居酒屋とカラオケに行ったところ、原告は店長から「キスされたでしょ」、「処女じゃないでしょ」などと言われたり、シャドウボクシングの真似で脅されたりした。
また、その年7月の送別会の際、原告が他店で働く恋人の給与がA店より高い旨パート従業員甲に話し、これを聞いた甲が店長に不満を述べたことから、原告は店長から強く叱責され、店長の学生時代の思い出に絡めて、「土手に顔だけ出して埋めて小便をかけて飲ませる」などと言われ、出勤できなくなった。
原告は、店長の度重なる暴言等により、著しい精神的苦痛を受けたとして、店長の使用者である被告に対し、慰謝料500万円、6か月分の休業補償100万円、弁護士費用50万円を請求した。
<第1審判決要旨>
店長の原告に対する青葉自体は必ずしも適切といい難い部分があるものの、直ちに損事賭借義務を発生させるような言動であるとは認め難い。
甲は、正月の打上げでは全員が和気藹々と飲んでおり、原告も普通に話に乗っており、悪い雰囲気ではなかったとの印象を持っていること、店長が勤務中に注意しても原告がそれを無視したり、不満そうにしていることなどの話をしていたことに照らすと、原告が店長から男牲従業員との関係を尋ねられたりすることを不快に感じてはいたものの、酒席における上記発言が直ちに原告に対する損害賠償を生じさせるような違法性を帯びるものとまでは認め難い。
店長がパートの給与に関する発言について原告に注意した趣旨、内容は、社員としての自覚を促すものであり、店長が相当程度厳しい口調で原告を叱責・説諭したことが窺われるものの、これが違法性を帯びるとまでは認め難い。
店長の一連の言動について、女性である甲はセクハラを目撃したことはないと証言していること、原告はA店に友人をアルバイトとして紹介していること、正月から7月までは特別開題になるような出来事はなかったと原告が供述していることに照らすと、店長の原告に対する一連の言動は、一部を除いて職務上の指導・注意・叱責であることは明らかであり、セクハラ行為とは到底認め難もいものであって、原告の上司としての理解、認識、配慮等が十分でない点があったとしても、店長の原告に対する注意、叱責等が職場において許容される限度を超えた違法な言動であったと認めるには足りない。
<控訴審判決要旨>
店長が控訴人(第1審原告)に対し、「秋葉原で働いた方がいい」と言った意味は、控訴人がメードカフェもこ向いているいうう趣旨と認められ、店長と控訴人とは上司と部下の関係にあって平素からさして打ち解けて話すこともなかったことからすれば、店長の一連の発言は、控訴人の仕事ぶりに対する指導目的から発したものであったとしても、許容される限度を超えた違法な発言であったといわぎるを得ない。
店長の控訴人に対する「処女に見えるけど処女じゃないでしょ」、「店にいる男何人とやったんだ」、「キスされたでしょ」などの言動は、その必要性が全く認められず、ただ控訴人の人格をおとしめ、性的にはずかしめるだけの言動であるし、他の従業員も同席する場において発言されたことによって控訴人の名誉を公然と害する行為であり、明らかに違法である。
店長の控訴人に対する各言動は、控訴人か自己の性的行動等に対する揶揄又は非難と受け止めてもやむを得ないものであり、店長にとって、主観的には控訴人に対する指導目的があったとしても、全体として到底正当化し得るものとは認め難い。
また、7月の送別会において店長が控訴人に対し「土手に顔だけ出して埋めて小便をかけて飲ませる」と発言したこと自体は認め難いが、店長は正月の居酒屋において同旨の発言をしており、それが叱られながらも頑張るべきことを教える目的であったとしても、適切な発言であったとは認め難い。
以上によれば、店長の控訴人に対する各言動は、全体として受忍限度を超える違法なものであり、そのことによって控訴人が恐怖感を抱き、再就労に向けて立ち直るまでには相当の時日を要する状態に陥ちたものと認めることができ、店長の各言動は不法行為となる。
店長の各言動は、いずれも職務執行中ないしその延長上にある懇親会等で行われたものであり、被控訴人(第1審被告)の事業の執行につき行われたものと認められる。
新年会は、店舗の全員が揃って参加したこと、飲食費の支払は店長と他店の店長が負担したことに照らし、本件店舗の営業に関連したものと認めるのが相当である。
店長の各言動は、全体として控訴人の人格をおとしめ、就業しづらくする強圧的ないし性的な言動といえ、指導、教育上の言動として正当化しうるものでもなく、それによって勤務を断念することになった控訴人が受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては50万円が相当である。
また、6か月分の逸失利益と弁護士費用20万円を認めるのが相当である。
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