集団によるいじめによる精神疾患
京都下労基署長(女性従業員)集団いじめ事件
(大阪地裁平成22年6月23日判決)
<事件の概要>
昭和62年4月に入社した女性従業員(原告)は6級に昇格したが、主に4級職の女性従業員と同様の補助的業務に就いていた。
@平成10年5月、原告は同僚からメールマガジンの配信業務を引き継いだところ、顧客情報が入れ替えられていた。
A平成12年6月、原告は同僚女性Aらから、6級職に相応しい仕事をしないで高い給料をもらっている等と妬まれ、積極的に悪口を言われるようになった。
B原告は同月頃、男性B課長から飛び蹴り等の真似をされた。
C原告は同月の会議で受付をしたところ、応援の女性から悪口を言われた。
D原告は同年3月ないし10月、男性C課長から背中を撫でられたり、お尻を触られたりした。
E原告は平成14年6月頃、同僚にパソコン操作を教えてケーキをもらったところ、女性らから「ケーキに釣られて仕事をする女」などと陰口を聞かれた。
F同年7月、原告がミスをした直後、女性らから陰口が行き交い、お互いに目配せして冷笑するなどされた。
G同年10月、原告がコピー作業をしていた際、「私らと同じ仕事をして高い給料をもらっている」と言われた。
H同年10月、いじめの中心であったAの席が原告の近くになり、Aから「これから本格的にいじめてやる」と脅された。
I同月、原告は受付をしていた際、同僚女性から「幸薄い顔」と言われた。
原告の上司であるDは、原告から相談を受けて、上記いじめについて認識していたが、原告に忠告はしたものの、具体的な対応には至らず、原告と同じグループのEも、女性らによる集団いじめやC課長からのセクハラの相談を受けたが、何ら対応をとらなかった。
原告は平成14年11月25日から休職し、精神科の診察を受けたところ、「不安障害、うつ状態」との診断を受け、通院を続けた。
原告は、精神障害の発症は、同僚らによるいじめと、会社が適切な対応をとらないという業務に起因したものであるとして、労災保険法に基づき労基署長に対し療養補償給付を請求したところ、同署長がこれを不支給とする本件処分をしたため、その取消しを求めた。
<判決要旨>
原告は同僚女性社員からねたみをかっているような状況にあったところ、原告は、休職にいたる前に同僚、上司等に射し同僚女性からのいじめについて相談していること、少なくとも平成12年4月から平成14年11月までの間に同僚女性らからいじめやいやがらせを受けていること、上司Dも原告のいじめの一部については気づいていること、原告が休職後、新任の支社長が初心挨拶の中で、いじめのようなくだらないことがないよう話していること、さらに、休職後、原告は医師やカウンセラーにいじめやいやがらせの具体的な事象を話していること、さらに、休職後、以上を総合すると、原告主張のAないしC、EないしIのいじめは存在したこと、また同僚女性社員らの原告に対するいじめやいやがらせは他人が余り気づかないような陰湿な態様でなされていたこと、それを原告が真剣に悩み、Dらに相談していたことが推認される。
なお@については、仮にその事実が諦められるとしても、原告の精神障害発症の4年以上前の出来事であることなどを踏まえると、これが本件疾病発症の原因となったとまで認めることはできない。
原告に対する同僚女性のいじめや嫌がらせは集団でなされたものであって、しかもかなり長期間継続してなされ、その態様もはなはだ陰湿であった。
このような事実を踏まえると、原告に対する上記いじめやいやがらせは、いわゆる職場内のトラブルという樽型に属する事実ではあるが、その陰湿さ、執拗さの程度において常軌を逸した悪質ないじめ、いやがらせというべきものであって、それによって原告が受けた心理的な負荷の程度は強度といわぎるをえない。
しかも原告に対するいじめやいやがらせについて、上司らは気づくことがなく、気づいた部分についても何らかの対応を採ったわけでもない。
原告は、意を決して上司等に相談した後も会社による何らの対応ないし原告に対する支援策が採られなかったため失望感を深めたことが窺われる。
原告は、まじめで責任感の強い性格であるが、臨床心理士も、ストレス耐性も人より高く、思考も柔軟で、臨機応変な態度で臨むことができそうと判断している事実を踏まえると、その性格が脆弱と判断することはできず、かえって、そのようなことがなかったことが窺われる。
原告は、休職前の平成14年9月4日、右乳房硬結、左乳腺腫瘍と診断されているが、同疾病は良性と診断されている事実を踏まえると、原告が同疾病によって強い心理的負荷を受けたとまで認めることはできない。
以上認定した事実を踏まえると、原告に発症した「不安障害、抑うつ状態」は、同僚女性社員によるいじめやいやがらせとともに、会社がそれらに対して何らの防止措置も採らなかったことから発症したもの(業務に内在する危険が顕在化したもの)として相当因果関係が認められる。
そうすると、本件疾病と業務との相当因果関係(業務起因性)を辞めなかった本件処分は取消しを免れない。
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