長時間労働と元請課長からの殴打で自殺
電気通信工事会社技術者自殺事件
(福岡地裁平成21年12月2日判決)
<事件の概要>
電気通信工事を業とする被告に雇用される甲は、M建設から請け負った空調設備工事(本件工事)の現場施工管理者として配置され、1年間の月間時間外労働時間は、123時間から176時間に上った。
甲の手違いからM建設の課長が甲を激しく殴打する事件があり、それ以降、甲は妻に対し自殺を窺わせるような発言をするようになり、殴打事件から半年後、甲は投身自殺した。
甲の妻である原告A、甲の両親である原告B及び同Cは、甲は過重な労働に起因してうつ病を発症し、自殺したものであるところ、被告には安全配慮義務違反及び不法行為があるとして、逸失利益、慰謝料等として、原告Aにつき5・744万円余、原告B及び同Cにつき各1,595万円余を請求するとともに、就業規則に基づく弔慰金3,000万円を請求した。
なお、労基署長は甲の自殺を業務上災害と認定し、遺族補償給付等を支給した。
<判決要旨>
甲の時間外労働時間数は、極めて大きな肉体的・精神的負荷であり、甲は、日中は現場巡視やM建設等との協諌・連絡を行っていたため、施工図の作成等は午後5時以降に行うことを余儀なくされ、同作業は甲にとって相当な肉体的・心理的負荷になったものといえる。
また、大手であるM建設を含む多数の一次下請けとの間で作業工程を管理・調整する作業は精神的緊張を伴い、甲はこの面でも心理的負荷が存在したというべきである。
甲が男性不妊症及び精子減少症に羅患し治療をしていたことは、一定程度心理的負荷になっていたことは否定し難いが、甲がこれについて深く悩んでいたことは窺えないから、これが本件精神障害を発症させるほどの心理的負荷となったとは考え難い。
以上を総合すると、甲は本件工事に携わって以降1年間にわたり過重な長時間労働に従事したことによって著しい肉体的・精神的負荷を受けて疲労を蓄積した結果、本件精神障害を発症して自殺に及んだというべきであり、業務と本件自殺との間には相当因果関係があることは明らかである。
被告は、甲が過重な時間外労働により健康を悪化させることがないように注意すべき義務があったのに、時間外労働の正規の手続きを採っておらず、その結果、長時間労働を放置していたものであるから、被告には不法行為を構成する注意義務逮反があったというべきである。
甲は、死亡当時38歳で、37年就労が可能であったから、逸失利益は4,451万円余、死亡慰謝料は2,400万円が相当である。
転職サイトを使いこなす!
スポンサードリンク
|
|