親会社へセクハラを訴えて降格退職
岡山(労働者派遣会社)女性店長降格・退職事件
(岡山地裁平成14年5月15日判決)
<事件の概要>
原告甲及び同乙は、一般労働者派遣事業等を業とする被告会社の常勤女性従業員で、原告甲は岡山支店長、同乙は高松支店長の職にあった。
被告会社の専務取締役(被告A)は原告甲に対し、「君を磨いたのは僕だ」、「君は僕の芸術だ」、「君を後継者と決めた。
これからはプライベートも仕事も拘束させてもらう」などと言ったほか、原告乙に対しては、原告甲が自分に抱かれるように促すことを依頼し、自分の思惑どおりになれば原告甲より高い収入を得られるようにすると提案した。
その後、被告Aは岡山支店の従業員に対し、「原告甲は身体で仕事を取って来る」などと言って、原告甲のリコールを唆し、原告甲から抗議されると、「君は独身だから性的欲求が解消されていないと思ったからだ」などと回答した。
翌月、原告らは、被告会社の親会社であるF社を訪れ、被告Aのセクハラ行為について説明し、その後10名程度と被告会社の社長(被告B)に会見した。
この場で原告乙は被告Aのセクハラ行為についてF社に相談に行ったことを告げ、被告Aを辞めさせなければ告訴すると迫った。
すると、被告Bは、原告らの行為はF社に被告会社を吸収させるものだと非難し、原告甲に隙はなかったか、原告甲が挑発したのではないかなどと反撃した。
一方、被告Aも事情聴取を受けたが、セクハラ行為については否定した。
事情聴取後、被告会社は、被告Aを平取締役に降格し、原告らについては、支店長でありながら組織ルールを逸脱して社内を混乱させたとして、役職のない従業員に降格し、給与を半減以下にする旨通知した。
そして半年後、原告らは、給与が全く支払われなくなり、円満に仕事をすることが不可能になったと判断して被告会社を退職した。
原告らは被告Aのセクハラ行為により精神的苦痛を受け、被告会社は適切な対応をとらず不当な降格処分により退職を余儀なくされたと主張して、被告らに対し、原告らそれぞれにつき慰謝料等1,100万円のほか、未払賃金及び逸失利益を請求した。
<判決要旨>
被告Aは、原告甲が自分以外の男性と付き合っているのではないかと考え、上司の立場を利用して、原告甲の異性関係を問いただしたり、肉体関係を求めたりし、原告甲は独身だから性的欲求が解消されていないなどと言って接吻を迫り、原告甲がこれを拒否し、F社にセクハラ行為を訴えるや、他の社員に対して、上司の地位を利用して原告甲は淫乱である等と風評を流し、その職場復帰を不可能にしたのであるから、不法行為に当たる。
また、被告Aは、上司の立場を利用して、原告乙に対し原告甲と肉体関係を持てるよう協力を要請し、原告乙がこれを拒否してF社に対してセクハラ行為を訴えるや、上司の立場を利用してその職場復帰を不可能にしたものであるから、不法行為に当たる。
被告Aの一連の行為は、被告会社の専務取締役の立場を利用してなされたものであり、被告Bの行為は、被告会社で生じたセクハラ問題についての事情聴取中になされたものであるから、被告会社はこれらの行為について使用者責任を負う。
被告会社は、被告Aの弁解を盲信し、原告らの主張するセクハラ行為について事実確認を十分にしないまま原告らに対し降格及び減給の処分を行っている。
しかも被告会社は、原告らに対して何ら弁明の機会も与えず,人事命令をファックスで送付したにすぎない上、支店長から一気に一番下の地位に降格し、その業務内容も従前とは全く異なるものであって、実質的に被告Aへの処分より原告らへの処分の方がはるかに重いものになっている。
被告Bは、原告らが支店長の立場にありながら社員にセクハラの話をし、業務時間内に社員を連れて訴えに来たことを処分理由とするが、少数者の訴えでは上司に聞き入れてもらえない危惧がある場合に、多人数で上司に訴え、職場改善を要求することは、被用者として当然許されるペき行為であって、これを降格及び減給の理由とすることは許されない。
そして、被告会社は、被告Aのセクハラ行為について十分な事実調査をせずに処分を行っているのであるから、原告らの処分理由が被告会社の供述どおりであったとしても、同処分は違法である。
原告甲は、被告Aから後継者の地位をちらつかされて肉体関係を迫られ、これを拒否するや仕事を取り上げられ、虚偽の性的内容の風評を流布され、適職せぎるを得ない状況に追い込まれたものであり、これによる慰謝料200万円が相当である。
原告乙は、被告Aから原告甲を抱くための協力を依頼され、これを拒否するや仕事を取り上げられ、虚偽の性的内容の風評を流布され、退職せざるを得ない状況に追い込まれたものであり、これによる慰謝料は30万円が相当である。
また、被告会社固有の慰謝料は各50万円が相当であり、未払給与相当額は、原告甲につき799万円余、原告乙につき356万円、逸失利益は、原告甲につき799万円余、原告乙につき914万円余となる。
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