勤務成績不良の客室係を洗い場に配転命令
温泉老舗旅館客室係配転・退職事件
(神戸地裁平成14年10月30日判決)
<事件の概要>
有馬温泉老舗旅館(被告)に勤務する客室係(原告)は、賞与を大幅に減額され、業績、能力、執務態度を厳正に評価したものとの被告の説明に納得せず、簡易裁判所に損害賠償の調停を申し立てたが不調に終わった。
被告は、原告が自己中心的な言動が多く他の客室係に負担をかけていたこと、新規の宿泊客の担当を拒否したことなどから、原告を厨房洗い場に配転する命令を通告したところ、原告は入社当初から客室係として職務が特定していたとして、本件配転命令を拒否した。
本件配転命令以後、被告は原告に客室係の仕事をさせなかったことから、原告はノイローゼ状態となり、自殺を図り、その後退職した。
原告は、違法な本件配転命令及び村八分によって退職を余儀なくされたとして、慰謝料等370万円を請求した。
原告は人事考課において客室従業員の中で最低の評価を受けるなどしていたが、そのことから直ちに客室係業務の適正な遂行を妨げられる程に原告の執務態度が劣悪であったというのは飛躍が過ぎると思われる。
被告が原告の執務態度の悪さを示す具体例について見ても、通常客室係の接客する人数は9名前後で、それを超える人数を担当する場合には補助が付くようになっていることからすれば、原告が14名を担当するのに臨時客室係を付けることを求めたことは無理からぬところもある。
また、接客数が10名でも補助が付いた客室係がいたことからすれば、原告が補助を求めて追加担当を拒否したこともー概に原告の我ままと決めつけることはできない面があり、これらをもって、原告を客室係としておけないほどに執務態度の劣悪さを示すものとはにわかには認め難い。
加えて、当時被告において、客室係に余剰人員があったことや、厨房洗い場の人手が不足していたことを窺わせる証拠もないことに照らせば、原告を客室係から厨房洗い場に配転しなければならない差し迫った業務上の必要性があったとは認め難い。
むしろ、客室係の接客業務と厨房洗い場の業務とは明らかに業務内容や勤務形態が異なっており、原告からすれば、客室係としての失格の格印を押されたに等しいと受け止めることは容易に想像できることに鑑みると、本件配転命令は、原告に精神的ショックを与え、ひいては原告を被告から追放しようとして行ったものと推論されてもやむを得ないところである。
以上からすれば、本件配転命令は、その配転権を濫用した違法な配転と認めるのが相当である。
原告は、本件配転命令以降うつ状態になり、挙げ句自殺を図り、一命は取り留めたものの、結局退職したこと等の事情を総合すると、慰謝料は100万円、弁護士費用は15万円が相当である。
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