医科大学で10年間の臨床と教育等外し
医科大学臨床外し等事件
(第1審 神戸地裁平成21年12月3日判決)
(控訴審 大阪高裁平成22年12月17日判決)
<事件の概要>
原告は、平成2年7月に被告大学耳鼻咽喉科に医員として採用され、平成3年9月に助手になった者である。
被告大学では、平成5年12月、定年退職する教授の後任を選出するための公募制による教授選が行われ、医局からはP助教授が推薦されたが、原告は教授に断りなく立候補したために教授の逆鱗に触れ、学生の教育担当及びすべての臨床担当から外された。
教授に当選した被告甲は、前任からの引継ぎを受け、原告から事情聴取することなく、従前どおり一切の臨床を担当させなかった。
原告は平成6年ないし9年に県立病院に派遣されていたが、派遣先からクレームがあり、平成11年11月に派遣は中止された。
原告は、被告甲や上層部に対し、臨床を担当させるよう強く要求し、その結果、平成16年8月から月曜日の再診が割り当てられ、平成19年11月、乙准教授と一緒に患者を診る、耳グループに属して耳診療に当たる、手術は耳中心として独断では行わないなどの方針が示され、これに従って診療行為を行うことになった。
原告は、被告甲は14年間にわたって仕事を与えないといういじめを行い、その結果、医師としての技量の維持向上を妨げられ、他大学や他の病院に転出する機会を剥奪され、人格権を侵害されたとして、被告大学及び被告甲に対し慰謝料1,500万円を請求した。
<第1審判決要旨>
医師と他の医局員らとの間に良好な人間関係を構築できていないことなどを理由に、危険性の高い臨床分野について当該医師に担当させないと判断することは必ずしも不合理とはいえないが、医療行為が全てそのような危険性を伴うとまではいえないし、被告甲は原告に県立病院への転任も打診しており、原告に臨床分野を担当させることが著しく不適当と認識していたともいえない。
また被告甲は、上層部からも平成15年6月頃、原告の取扱いについて検討を指示されていたのに、平成16年8月まで臨床を担当させなかったものであるが、約10年間にわたって原告に−切の臨床を担当させなかったことは、その裁量権を逸脱したものである。
もっとも、原告については以前から協調性を欠くという評価がなされていた上、派遣先病院から派遣中止の申し出がなされたり、多数の被告大学職員から、原告とともに臨床を行いたくない皆の嘆願書が複数提出されている事実に幾みると、原告自身にも協調性を欠くと評価されてもやむを得ない面があったと推認される。
平成16年8月から担当するようになった再診において、仮に原告への患者の割当が少なかったとしても、各医師にいかなる患者を割り当てるかについては、医師の技量や専門性に応じて行われる上、その割当において被告甲に裁量の逸脱、濫用があったと断ずることまではできない。
原告は、被告甲が専門外来を担当させないことを違法と主張するが、出席率は他の医師と比して低率に止まっており、医局会への出席率も5割以下で、医局員とのコミュニケーションを図る機会を自ら放棄しているとも評価される。
平成15年12月、原告は内視鏡手術の経験がないのに被告甲らに相談なく、鼻内視鏡手術をしようとしたが、被告甲に咎められて手術直前に断念したことが認められる。
原告は他のスタッフの状況を把握することも、内視鏡手術の経験が皇宮な医局員に指導を頼むこともないまま、手術をしようとしていたものであり、かかる原告の行動は医師の対応として不適切といわぎるを得ない。
平成17年2月、原告は中咽頭部の患者に対し、頭頸部腫瘍グループに相談することなく、独断で治療方法を決定し、カンファレンスによる決定後もこれに反して動注療法を行おうとしていたものと推認できる。
このような原告の言動は医療機関に対する患者からの借頼感を喪失させるおそれがあるばかりか、患者の生命身体を危険に晒すおそれも否定できないものであり、不適切といわざるを得ない。
以上のような事情を考慮すると、比較的簡易なものを除き原告に手術を担当させない方針をとった被告甲の判断が、その裁量を逸脱、濫用したものとはいえない。
原告は、平成6年から平成18年1月まで教育担当を割り当てられなかったが、学生に対する指導は臨床の経験とは異なり、必ずしも医師としての技量に直接影響するものではないから、このことが直ちに被告甲の裁量を逸脱、濫用するものとはいえない。
原告は昇進において差別を受けていると主張するが、人事評価は単に経験年数や業績だけで行われるのではなく、原告の勤務態度に問題があるというべき事情が見受けられるから、原告を昇進させず、他の医局員を昇進させるとの被告甲の判断が、その裁量を逸脱、濫用し、原告を差別的に取り扱ったと評価することはできない。
被告甲が約10年間、原告に臨床を担当する機会を全面的に与えなかったことについては、その裁量を逸脱する行為である。
原告には協調性を欠くと評価されてもやむを得ない面があったり、独断で治療方針を決定するなどの問題もあり、原告に臨床を担当させないという被告甲の判断も、危険性の高い分野に関しては違法不当であったとはいえない。
そして、原告が臨床を担当できなかった期間や原告の勤務態度、被告病院及び派遣先病院以外の病院で臨床を担当したことなどの事情を総合すると、慰謝料は100万円が相当である。
控訴審では、被控訴人(被告)らは、控訴人(原告)を、医師の生命線ともいうべきすべての臨床担当から外したことは差別的意図に基づく処遇であったこと、被控訴人らは控訴人に対し十分な指導をしなかったこと、控訴人の態度はそれまでの処遇に起因する面もあったこと等を挙げて、慰謝料を200万円に引き上げた。
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