建物明け渡し拒否で恫喝や配転
神奈川(建物明渡し)強要事件
(横浜地裁平成2年5月29日判決)
<事件の概要>
被告P社に勤務する原告は、住宅費の補助を受けながら、被告M物産幹部の被告甲所有の本件建物を貸借し、住居として使用していた。
被告甲は、本件建物の明渡し要求を原告が強硬に拒絶したため、知り合いのP社専務に助力を求め、同専務は原告に対し本件建物の明渡しを説得した。
原告は被告甲と話し合いをして、条件の良いところがあれば移転するとの合意を見たが、紹介された多数の物件に対し反応を示さなかった。
原告の直属上司である被告乙は、左遷をほのめかしながら、原告に本件建物の明渡しを強く迫り、人事部長(被告丙)は、原告が住宅費の補助を受けていたため、明渡しを強く勧告した。
被告乙はその後も8回にわたり、原告に対し人事上の不利益を示唆しながら、執拗に本件建物の明渡しを強く迫ったが、原告はさらに態度を硬化させて拒絶した。
その後原告は、配置換えとなり、人事考課がD(極めて不満足)、C(やや不満)が多くなった。
原告は、被告乙及び同丙が人事上の不利益をほのめかしながら本件建物の明渡しを迫ったこと、不当な配転、人事考課をしたことを理由として、被告らに対し、慰謝料1,200万円等を請求した。
<判決要旨>
上司が部下の私生活上の開港につき一定の助言、説得をする場合、それが一定の節度をもってなされる限り、部下に多少の違和感、不快感をもたらしたからといって、直ちに違法と断ずることはできない。
しかし、部下が自らの責任で、家主との間で自主的解決に応じないことを確定的に決断している場合には、上司がなおも明渡請求に応じるよう執拗に強要することは、許された説得の範囲を超え、不法行為を構成する。
被告乙は、原告が本件建物の明渡しを頑強に拒んでいることを知ったうえで、人事上の不利益をほのめかしながら、少なくとも2か月間8回にわたり執拗に明渡しを説得し続けたのであるから、上司として許された説得の範囲を超えた違法な行為というべきであり、慰謝料30万円の支払をもってするのが相当である。
また、被告P社は使用者として被告乙と連帯して原告に対する損害賠償義務を負う。
本件建物の明渡しに関連して、被告乙と原告の間にかなり深刻な感情的対立が生じたこと、原告の異動は不本意であったこと、本件明渡問題の翌年以降の原告の人事考課が芳しくないことに着目すれば、被告乙と原告との感情的な対立が、人事考課、配転に関して何らかの影響を与えたとの疑念も生じないわけではないが、他方、原告はかつて課長から部下のいないスタッフに格下げになったこともあり、人事考課にあたり、被告乙が報復として裁量権を濫用したとまで断定するには、なお席緒を感じぎるを得ず、被告丙も裁量権を濫用ないし逸脱したことを認めるに足る証拠はない。
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