他の従業員への誹謗中傷を理由に罵倒と出向
鳥取(電機会社)脅迫等事件
(第1審 鳥取地裁平成20年3月31日判決)
(控訴審 広島高裁松江支部平成21年5月22日判決)
<事件の概要>
原告は、出産を機に一旦退職した後、昭和59年6月に契約期間1年の準社員として被告会社に復帰し、平成16年頃から一定期間携帯電話の製造作業に配属された。
平成18年5月、原告はロッカーで「甲は以前の会社で何億も使い込んだ」旨発言し、これを知った甲は潔白を訴えたが、原告はこの中傷発言を否定した。
人事課長(被告A)は、同年6月に原告と面談し、その際原告のふてくされた態度に腹を立て、「何億円と使い込んだ証拠を持って来い」、「何が監督署だ、何が裁判所だ」などと大声で叱責した。
同月、原告と被告会社は契約期間を1年間とする労働契約を締結したが、その際被告会社は原告に対し、就業規則の懲戒事由に該当する行為があれば懲戒解雇もあり得る旨の「覚書」への署名押印をさせた。
同月、被告会社では携帯電話製造業務が終了することに伴い、原告がかねてから短時間の職場を希望していたことから、原告を清掃業務を主事業とするK社に出向させることとし、出向前の約1週間、担当部長(被告B)は、原告に社内規程を精読するよう指示し、原告はこれに従事した。
被告会社は、平成19年度の原告の人事評価を総合「C」(5段階の4番目)とし、同年6月から1年間の原告の基本給を減額した。
原告は、面談における被告Aの罵倒行為、覚書への署名押印、社内規程の精読、K社への出向、原告の評価を「C」としたことはいずれも不法行為を構成するとして、被告A及び被告B並びに被告会社に対し、連帯して慰謝料800万円を支払うよう請求した。
<第1審判決要旨>
そもそも原告は、被告らに対し、甲に対する悪口を言っていないと述べており、被告Aもそれを直ちに虚偽と決めつける根拠はなかったから、「反省する様子を示さず、反抗的で、面談を−方的に切り上げようとした」との理由で、原告に対し声を荒らげて罵倒したことは不法行為を構成する。
また被告Aは、自身の判断が裁判所や労働基準監督署による規律よりも優先するという思いよがった考えを何度も強調しており、その言動の内容も不当である。
そのうえ、人事担当者らは原告をK社に出向させ、本来職務とは全く異なる清掃業務に従事させており、K社による勤務成績の評価にまで介入している。
これらは全体として、優越的地位に乗じて原告をむ理的に追い詰め、長年の勤務先である被告会社の従業鼻としての地位を根本的に脅かすパワーハラスメントを構成する。
原告が被告らの前記不法行為により被った精神的損害は、長年勤務した被告会社の従業員としての地位を根本的に脅かすべき嫌がらせであったことをも考慮すると、慰謝料300万円を下らない。
<控訴審判決要旨>
本件面談の目的は正当であったといえるが、被控訴人(原告)の中傷発言を前提としても、本件面談の際に控訴人(被告)Aが感情的になって大声を出し、被控訴人の人間性を否定するかのような不相当な表現を用いて叱責した点については、従業員に対する注意、指導として社会通念上許容される範囲を超えているものであって、被控訴人に対する不法行為を構成するというペきである。
もっとも、控訴人Aが感情的になって大声を出したのは、被控訴人が不遜な態度を取り続けたことが多分に起因していると考えられるところ、控訴人Aは会話を録音されていることに気付かず、被控訴人の対応に発雷内容をエスカレートさせていったと見られるが、被控訴人の言動に誘発された面があるとはいっても、やはり人事担当者が面談に際してとる行動としては不適切であって、控訴人A及び控訴人会社に慰謝料支払義務は免れない。
覚書の記載内容は新準社員就業規則に照らして必ずしも不当とはいえず、裁量の範囲内というべきであって、控訴人会社が被控訴人と労働契約書を取り交わすに際して「覚書」に署名押印を求めたことが不法行為を構成するとはいえない。
控訴人Bが被控訴人に対して社内規程の精読を指示したのは、被控訴人に職場の規律を乱す間籠行動が見られたことから、社内規程の理解を促す必要があると考え、出向前の待機期間の指導の−環として行ったものであり、不法行為を構成するものとはいえない。
控訴人会社は、携帯電話製造業務が終了することにともない、被控訴人の新たな異動先を検討する必要が生じたところ、被控訴人が希望する勤務時間に沿う就労をする場としてK社に出向させ、独身寮の清掃業務を選定したこと、当時K社には36名の正社員が出向しており、独身寮にも3名の女性従業員が清掃業務に就いていたこと、K社に出向しても労働条件に変更はなかったこと等の事実によれば、企業における裁量の範囲内の措置であって、不法行為を構成するものとはいえない。
被控訴人への「C」評価が不当であることを窺わせる事情は見当たらないことからすれば、企業における人事評価の裁量権を逸脱したものとはいえない。
控訴人Aが、本件面談の際、大声を出し、被控訴人の人間性を否定するかのような不相当な表現で被控訴人を叱責したことは不法行為を構成するが、これには被控訴人の態度も多分に起因していると考えら
れ、慰謝料は10万円とするのが相当である。
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