違法な引き抜きの判例
<判例>
Xは英会話教室を経営する会社であり、Y1は英語教材を販売する会社である。
Y2は、Xの取締役兼営業本部長で、Xの売上の80%をも占める業績を上げ、経営上きわめて重要な地位にあった。
しかし、Xの経営に対して不安や不満を持っていたY2は、取締役を辞任し、その後間もなくY1の役員から移籍をもちかけられた。
Y1とY2は、Y2の移籍を前提として、Y2の従前の部下らをXから引き抜くことを計画し、事前に従前の部下のマネージャーを説得し計画に引き入れて、Y1の費用負担で慰安旅行と称して従前の部下であったセールスマンらを事情を一切告げず温泉地のホテルに連れ出し、Y1への移籍を説得した。
当日の早朝には、従前の部下で計画に事前に加わっていたマネージャーらが、引き抜き対象のセールスマンらの私物や業務書類などをXから持ち出し、事前に確保していたY1の事務所に運び込んでいた。
そして、移籍の説得の際、Y1と販売商品の説明もなされ、帰京の翌日からY1で営業を開始することを確認して解散した。
以上のように従業員を大量に引き抜かれたことによって被った減少分の利益を損害として、Xは、Y1とY2に対し損害賠償を請求した。
「およそ会社の従業員は、使用者に対して、雇用契約に付随する信義則上の義務として、就業規則を遵守するなど労働契約上の債務を忠実に履行し、使用者の正当な利益を不当に侵害してはならない義務(以下「雇用契約上の誠実義務」という。)を負い、従業員が右義務に違反した結果使用者に損害を与えた場合は、右損害を賠償すべき責任を負うというべきである。
・・・個人の転職の自由は最大限に保障されなければならないから、従業員の引き抜き行為のうち単なる転職の勧誘に留まるものは違法とはいえず、したがって、右転職の勧誘が引き抜かれる側の会社の幹部従業員によって行われたとしても、右行為を直ちに雇用契約上の誠実義務に違反した行為と評価することはできないというべきである。
しかしながら、その場合でも、退職時期を考慮し、あるいは事前の予告を行う等、会社の正当な利益を侵害しないよう配慮すべきであり(従業員は、一般的に2週間前に退職の予告をすべきである。民法627条1項)、これをしないばかりか会社に内密に移籍の計画を立て一斉、かつ、大量に従業員を引き抜く等、その引抜が単なる転職の勧誘の域を超え、社会的相当性を逸脱し極めて背信的方法で行われた場合には、それを実行した会社の幹部従業員は雇用契約上の誠実義務に違反したものとして、債務不履行あるいは不法行為責任を負うというべきである。
そして、社会的相当性を逸脱した引き抜き行為であるか否かは、転職する従業員のその会社に占める地位、会社内部における待遇及び人数、従業員の転職が会社に及ぼす影響、転職の勧誘に用いた方法(退職時期の予告の有無、秘密性、計画性等)等諸般の事情を総合考慮して判断すべきである」。
「・・・Y2の本件セールスマンらに対する右移籍の説得は、もはや適法な転職の勧誘に留まらず、社会的相当性を逸脱した違法な引き抜き行為であり、不法行為に該当すると評価せざるを得ない。
したがって、Y2は、Xとの雇用契約上の誠実義務に違反したものとして、本件引き抜き行為によってXが被った損害を賠償する義務を負うというべきである」。
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