痴漢行為で退職金不払いの判例
<判例>
鉄道会社であるYでは、痴漢撲滅に取り組んでいたところ、Yの従業員であるXは、休日に他社の鉄道の社内において、痴漢行為で逮捕された。
身元引受のため、会社の社員が警察署で面会し、事情を聞いたところ、以前にも2回、同様の事件で逮捕されていたことがわかった。
その後、Yは、Xを懲戒解雇し、就業規則の規定(「懲戒解雇により退職するもの、または在職中懲戒解雇に該当する行為があって、処分決定以前に退職するものには、原則として、退職金は支給しない」)に基づき、退職金(勤続約20年のXには約920万円の支給が予定されていた)を不支給とした。
一審は懲戒解雇及び退職金の不支給について、いずれも有効と判断したため、Xが控訴した。
「このような賃金の後払い的要素の強い退職金について、その退職金全額を不支給とするには、それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要である。
ことに、それが、業務上の横領や背任など、会社に対する直接の背信行為とはいえない職務外の非違行為である場合には、それが会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視し得ないような現実的損害を生じさせるなど、上記の犯罪行為に匹敵するような強度な背信性を有することが必要であると解される」。
「このような事情がないにもかかわらず、会社と直接関係のない非違行為を理由に、退職金の全額を不支給とすることは、経済的にみて過酷な処分というべきであり、不利益処分一般に要求される比例原則にも反すると考えられる」。
「本件行為が、・・・相当強度な背信性を持つ行為であるとまではいえないと考えられ・・・そうすると、Yは、本件条項に基づき、その退職金の全額について、支給を拒むことはできないというべきである。
しかし、他方、上記のように、本件行為が職務外の行為であるとはいえ、会社及び従業員を挙げて痴漢撲滅に取り組んでいるYにとって、相当の不信行為であることは否定できないのであるから、本件がその全額を支給すべき事案であるとは認め難く」、「本来支給されるべき退職金のうち、一定割合での支給が認められるべきであり」、「本件行為の性格、内容や、本件懲戒解雇に至った経緯、また、Xの過去の勤務態度等の諸事情」を考慮すれば、本来の退職金の支給額の3割とするのが相当である。
(小田急電鉄事件 東京高判平成15・12・11 労判867)
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